症例紹介

Case66 巨大なシストを形成したセルトリ細胞腫の犬の1例

お腹がパンパンに張っているとの事で来院した10歳のゴールデンレトリバーの男の子です。元気、食欲はあるものの時々嘔吐や嗚咽の症状があるとの事でした。

健康な時の体重は35kg前後ですが、今回は42.9kgと約8kg増えています。

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腹部レントゲン所見

 

腹部レントゲン検査では腹腔の半分以上を占める巨大なマス陰影が認められ、消化管は頭側および背側に押しやられています。

また、マスの尾背側の一部突出し、僅かに石灰化(レントゲンでは白っぽく写る)していました。

 

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超音波検査では大量の液体貯留したシスト(嚢胞)が認めれました。貯留液が大量で緒臓器の観察が出来ないので経皮的に貯留液を抜去したところ、茶褐色の液体が約8リットル吸引され、吸引後の体重は34.5kgまで減少し腹囲も102cmから74cmといつもの体型に戻りました。

写真右は抜去後の超音波所見で、一部実質臓器と思われる所見の部分がありましたが発生母地の特定には至りませんでした。

8日後の再診時には中等度の腹囲膨満が認められ、超音波検査でも液体の再貯留を認めたためシストの摘出を前提に試験開腹を計画しました。

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術中所見

 

常法に従い開腹すると脾臓し接して巨大なシストが認められたため、小切開を加え貯留液をサクションで吸引しました。

シストは広範囲に大網と癒着していたため剥離と切開で周囲組織と分離しました。

 

 

 

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シストの一部に比較的堅い腫瘤が認められ、また血管と白い索状物がよじれた状態で存在していました。

この白い索状物を腹腔側にたどって行くと精管である事が確認出来たため基部で結紮離断しました。

Ope4写真左は摘出した腫瘤の一端からシストが形成されている様にみえます。

病理組織検査の結果、精巣は凝固壊死、嚢胞はセルトリ細胞腫と診断されました。

犬のセルトリ細胞腫は潜在的悪性腫瘍と考えられ、しばしば腫瘍細胞からエストロジェンという女性ホルモンが分泌されることにより、雌性化症候群(対側の精巣委縮、雌性化乳房、皮膚疾患、前立腺過形成、他の雄犬に対する攻撃性の増高など)を起こす事があります。

またエストロジェンの骨髄毒性により貧血等の血液疾患が誘発されることがあり、稀ではありますが致命的となるという報告があります。

本症例のような停留睾丸は原発性精巣腫瘍の危険因子と考えられていますので、睾丸(精巣)が一つしか無いワンちゃんは早い時期に手術する事が推奨されます。

調布市 つつじヶ丘動物病院

ありません。