症例紹介

Case52 脾臓摘出を行った特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の犬の1例

1歳4ヶ月の若いトイプードル君です。

狂犬病ワクチンと健康診断のため来院された際の血液検査でたまたま血小板減少が判明しまた症例です。

お家での生活や身体検査では全く異常ありませんでしたが、血小板数は11,000/μl(正常価20〜50万/μl)と著しく減少していました。

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初診時の血液塗抹所見

 

右は初診時の抹消血の塗抹標本の写真ですが、ピンク色で中央が少し薄くなっているのが赤血球で、中央の紫色の細胞が白血球(好中球とリンパ球)で、血小板は赤血球の間に僅かに認められるだけです。

血小板減少の原因は産生の低下(造られない)と破壊•隔離•消費の亢進に大きく分けられ除外診断して行きます。

 

レントゲン検査、腹部超音波検査では異常が認められませんでした。
臨床的に血小板減少症の原因となるDIC(播種性血管内凝固)を除外するためにPT、APTT Fib、FDP、ATⅢなどの検査結果はいずれも正常範囲内でした。

以上の結果から特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と免疫介在性巨核球低形成以外が除外されましたので、プレドニゾロンの単独投与十分な効果が得られなかったためシクロフォスファミド併用しましたが副作用の骨髄抑制が強くシクロスポリンに変更しました。

その後、血小板数は5万/μl程度で推移したため骨髄線維症および巨核球(血小板をつくる細胞)の有無を確認するため骨髄検査を行いました。

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骨髄検査所見

 

骨髄の塗抹の検査では正形成髄で巨核球系も正形成と判断されました。

また骨髄コア生検でも正形成髄と診断され骨髄線維症は否定されました。

←が指しているのが巨核球です。

 

 

 

また、この際行った血液検査でALT575u/l、AST72u/l、ALP>3500u/l、GGT600u/l、TBil0.7mg/dlとステロイドの副作用と考えられる副作用が認められました。

肝酵素のみならず、軽度ですが黄疸(ビリルビン価=TBil の上昇)も認められたため、ステロイドを漸減し免疫抑制剤での維持を目指すか、脾臓での血小板破壊されている可能性を考え、摘出を試みるかオーナー様に提示した所、脾摘を希望されました。

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肝臓生検の様子
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切除した肝臓の肉眼所見
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摘出した脾臓

写真左上は肝臓生検している所で肝臓は肉眼的に腫大し黄色みを帯びていました。

病理組織学的には重度の肝細胞の退行性変性と診断されました。

脾臓の病理組織学的検査では、局所的な脾臓組織の変性壊死、出血性病変、白脾髄の軽度委縮にともなう不明瞭化、軽度の髄外造血像、赤脾髄領域でそ脾洞血液貯留の低下と診断されました。

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グラフ:治療の経過
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第103病日の血液塗抹所見

グラフの赤い折れ線はALT価、青折れ線は血小板数を示しています。

術後の経過は順調で肝障害も回復し、第103病日の血小板数は708,000/μlにまで回復しステロイドから脱却する事が出来ました。
写真右は第103病日の血液塗抹所見で、大型のものを含め多数の血小板(←)が認められます。

血小板は血液に含まれる細胞成分の一つで、血管が傷付いたとき集合してその傷口をふさぐ止血作用があります。

血小板減少症の原因は多岐にわたり、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は小動物臨床領域で時々遭遇する疾患です。

人のITP(=IMTP)治療は、ピロリ菌の検査および陽性なら除菌。

First line治療:ステロイド投与、ステロイドの効果不十分または副作用発現時に脾臓摘出。

Second Line治療:First line治療の治療効果不十分な場合、シクロスポリン、アザチオプリン、シクロファオスファミド、ダナゾール、デキサメサゾン大量投与、リツキシマブ、多剤併用化学療法が標準的治療とされている様です。

動物では明確な治療ガイドラインがありませんが、本症例では内科的治療の効果が不十分で、ステロイドの副作用が強く出たため脾臓摘出を行い良好な結果を得る事ができました。

 

 

 

 

 

 

 

調布市 つつじヶ丘動物病院

 

 

 

ありません。